背中に太古の生き物を思わせる帆を備え、頭部にはクレスト(トサカ)を持つバシリスク。その姿はまさに小さな恐竜です。野性下では主に森林の水辺に生息し、外敵から逃げる際には水上を沈むことなく猛スピードで走り抜けます。
そのため「忍者トカゲ」の異名を持っています。そんなバシリスクの一種、ノギハラバシリスクの生態、魅力、飼育方法を詳しくご説明します。
ノギハラバシリスクってどんな動物?
出典:オーナーズフィッシュ
ノギハラバシリスクは主に中央アメリカ、メキシコに生息するイグアナ科のトカゲで、バシリスクの仲間のなかではグリーンバシリスクとともにペット用として多く流通しています。
大きさ・色・寿命
尻尾を含めた全長は60~70cm、頭胴長は20~30cmほどで、バシリスクの仲間のなかでは小型の種類です。
グリーンバシリスクがその名の通り鮮やかな緑の体色で、また背中の帆も大きいのに対し、ノギハラバシリスクの体は褐色で背中の帆も小さく、一見すると地味と思われるかもしれません。
しかし成長したオスのクレストはバシリスクの仲間のなかでも最も大きく、褐色の体にも鮮やかな黄色のラインが走っているなど、とても野性味溢れる魅力的な姿をしています。
なお、クレストと帆が発達するのはオスのみで、これはバシリスクの仲間全てに共通します。寿命は平均10年といわれています。
魅力
出典:Naturfoto.cz
爬虫類とは思えないほどおっとりとしたヒョウモントカゲモドキ、ドタバタと滑稽な行動が面白いフトアゴヒゲトカゲと違い、ほぼ全てが自家繁殖された個体でありながらノギハラバシリスクはまだ野性味が残っています。
ベビーの頃から育てればある程度は慣れてくれますが、それでも動きは素早いので、ヒョウモントカゲモドキのようにスキンシップを楽しむのは難しいでしょう。
けれども愛情を持って世話をし、温度管理、湿度管理をしっかり行えばやがて立派な「小さな恐竜」に育ってくれるはずです。ノギハラバシリスクの魅力はその野性味あふれる姿や行動ではないでしょうか。
販売価格と購入方法
ノギハラバシリスクは、ヒョウモントカゲモドキやコーンスネークのように珍しいカラーや品種に驚くような値段がついているということもなく、かなり安価で販売されています。
ほとんどの個体が5,000円前後で購入できます。
しかし爬虫類専門店でしか取り扱っていないことが多く、一般のペットショップではほぼお目にかかれません。ですが注文を受け付けてくれる可能性はあるので、問い合わせてみるのもよいでしょう。
ノギハラバシリスクの飼育に必要なもの
出典:Yahoo!きっず図鑑
(1)ケージ
水槽ではなく、爬虫類飼育専用のガラスケージがおすすめです。爬虫類ケージは前開き式になっており、掃除や給餌が簡単に行えます。
水槽ではこれらの世話を真上からすることになり、上からの視線をとくに怖がるバシリスクを常に緊張させてしまうことになります。脱走されてしまう可能性も非常に高くなります。
ノギハラバシリスクは1日の大半を樹上で過ごすため、ケージにはある程度の高さが求められます。また危険を感じると素早く走り回るので、狭いケージではガラスに顔をぶつけることがあります。
爬虫類用品メーカーが販売している幅90cm、奥行き45cm、高さ45cmのケージがおすすめです。このサイズのケージなら終生飼育が可能です。
(2)床材
出典:Naturfoto.cz
ノギハラバシリスクは高湿度の環境を好むトカゲです。野生個体が生息している中央アメリカの国々の年間の平均湿度は75%~80%ほどなので、ケージ内の湿度も75%以上に保つのが理想的です。
床材に保湿力の高いものを用いることはケージ内の乾燥を防ぐ方法の一つです。十分に湿らせたヤシガラやミズゴケなどをケージの底に厚めに敷き、ときどき水を注いだり霧吹きをして、常にその状態を保つようにします。
(3)流木
ケージ内に流木を何本か立て掛けておくと、それに登りノギハラバシリスクが樹上生活を送れるようになります。
また、野性下では水場の上に張り出した木の枝にいることを好むので、流木と流木を枝のような物で繋げてあげるとその上でくつろいでいる姿を見ることができます。
(4)水入れ
全身がすっぽり入る大きさの水入れを用意します。これは飲み水のためというよりも、ノギハラバシリスクが本来暮らしている水辺を再現するためのものです。
100円ショップで売られているタッパーや洗面器に水を張ってケージ内に置いておくと、突然流木から飛び込んだり、尻尾だけ水に浸けたままタッパーのふちで休んだりといった、ノギハラバシリスクらしい行動を見ることができます。
(5)紫外線ランプ
出典:Naturfoto.cz
昼行性の爬虫類は太陽光に含まれる紫外線、とくにUVBを浴びることで体内にビタミンD3を生成し、それによって初めて餌に含まれるカルシウムを栄養として吸収することができます。
つまり、昼行性の爬虫類はどんなにカルシウムが豊富な物を食べても、UVBを浴びなければ意味がないのです。
ノギハラバシリスクは森林に生息するトカゲなので、フトアゴヒゲトカゲなど乾いた荒地に生息するトカゲほどには強いUBVは必要ありません。
市販されているUVBランプには「砂漠、サバンナに生息する生き物用」の物と「ジャングルに生息する生き物用」の物がありますが、ノギハラバシリスクの飼育には後者の「ジャングルに生息する生き物用」の物が適しています。
(6)バスキングランプ
バスキングとは直訳すると「温まる」「日向ぼっこをする」という意味です。バスキングランプは、爬虫類に短時間で体温を上げさせるために、ケージ内の一カ所にバスキングスポット(疑似日向)を作るための物です。
市販されているバスキングランプには150W、100W、75W、50Wなどの物があり、数字の大きいほど強い熱を発しますが、これもUBVランプ同様、森林に暮らすノギハラバシリスクにはそれほど強力な物は必要ありません。
90cm×45cm×45cmサイズのケージでも、50Wの物で十分でしょう。50Wのバスキングランプでも直接触るととても熱いので、火傷防止のために、専用のネットを被せるようにしましょう。
※ノギハラバシリスクは非常にジャンプ力があり、いろいろなところに飛び移ります。
(7)パネルヒーター
フィルム状の加温器具です。ヒョウモントカゲモドキのような完全地表棲の生き物にはケージの下に敷いて使用しますが、ノギハラバシリスクのように樹上棲の生き物にはケージの側面や背面に貼り付けて使用します。
※爬虫類飼育に加温器具は必須であり、各メーカーから様々な加温器具が販売されていますが、フトアゴヒゲトカゲのような乾燥した地域に暮らす爬虫類とノギハラバシリスクのような湿度の高い地域に暮らす爬虫類では使用する器具が違います。
乾燥した地域に暮らす爬虫類を飼育するときは、保温球や『暖突』という商品名で販売されている遠赤外線ヒーターを直接ケージ内に入れて加温することができますが、これらの器具はケージ内の湿度を著しく下げてしまうため、高湿度を好む爬虫類の飼育には向いていません。
ノギハラバシリスクの飼い方
出典:Naturfoto.cz
餌の与え方
フタホシコオロギ、ヨーロッパイエコオロギ、デュビア(アルゼンチンフォレストローチ)など、爬虫類の餌として一般的な昆虫で飼育できます。
「落ちた木の実を食べていた」という報告もあるので雑食性ということになりますが、限りなく肉食性(昆虫食性)に近い雑食性です。
飼育方法
まず餌の与え方ですが、ペット用として流通しているノギハラバシリスクは、同じくペット用として流通しているヒョウモントカゲモドキやフトアゴヒゲトカゲとはちがい、警戒心というものを忘れていない個体が多いです。
ヒョウモントカゲモドキやフトアゴヒゲトカゲはとくに警戒もせずピンセットから直接コオロギを食べてくれますが、ほとんどのノギハラバシリスクは手を近づけると怖がってしまい、逃げ出してしまいます。
そこでおすすめなのが、小さなタッパーに後ろ脚を切り落としたコオロギを数匹入れ、ケージ内に置くという方法です。後ろ脚を切り落とすのはコオロギが跳んで逃げてしまわないための処置です。
ケージ内に直接コオロギを放つのは避けるのが無難です。広いケージ内のどこかに隠れてしまい、しかもコオロギは湿気に弱いので、高湿度のケージ内でノギハラバシリスクに捕食される前に死んでしまい、湿度のせいでカビの塊になってしまいます。
次に湿度の維持ですが、これは日に何度かケージ内にたっぷり霧吹きをします。やはり床材を湿らせておくだけでは75%以上の湿度の維持は難しく、とくに夏や冬にエアコンをつけていると、どうしても空気が乾燥してしまいます。
こまめに霧吹きをし、ノギハラバシリスクが本来暮らしている環境を再現してあげることが大切です。また、クレストの成長には湿度が大きく関わっているので、立派なクレストを作り上げるためにも湿度の維持は重要です。
ケージ内の温度は30℃前後が理想的です。唯一、バスキングスポットだけ40℃ほどにしてあげるとよいでしょう。他にすることはフンの掃除、水入れの水の交換です。
あとは他の爬虫類の飼育と同様、彼らなりのペースでのんびりと過ごさせてあげるだけです。
※与えるコオロギには必ずカルシウムパウダーをまぶして下さい。
まとめ
「ペット」というとどうしても触れ合いや愛情表現を期待しがちですが、かけた愛情に目に見える形で愛情を返してくれなくても、爬虫類たちは「立派な体に育ってくれた」、「目の前で話しかけても逃げなくなった」、「平均寿命を突破してくれた」、そしてノギハラバシリスクのように「立派なクレストを持った『忍者トカゲ』に成長してくれた」と、何らかの形で応えてくれます。
しかも長寿であることから、犬や猫などの一般的なペットとは一味ちがうけれども、やはり立派なペットなのです。